2017年10月15日。大粒の雨が降る中、私たちは1匹の子猫と出会いました。
体重はわずか444g。手のひらに収まるほど小さな体は、冷たい雨に濡れてぐったりしていました。
この子が、のちに「あんこ」と名付ける愛猫です。
あんこと一緒に過ごした日数は3,118日。約8年半の月日です。
8歳を迎えた頃、FIV(猫エイズ)の陽性が判明しました。告知を受けたときは、猫エイズという病気を受け入れることが正直できませんでした。
でも、今だから言えることがあります。
FIVと診断されても、正しい知識とケアがあれば、猫は幸せに暮らせます。
この記事では、あんこを保護した日から最期の日までを、時系列で振り返ります。
私たちが何を感じ何に悩み、何をしたのか。すべて正直に書きました。
同じ立場の飼い主さんに、少しでも「大丈夫」と思ってもらえたら嬉しいです。
- 愛猫がFIVと診断されて不安を感じている方
- FIVキャリアの猫との暮らしを具体的に知りたい方
- 保護猫を迎えたいけれどFIVが気になっている方
- FIVの猫を看取った・看取りを考えている方
FIVの基礎知識をまず知りたい方は、概要編:猫エイズ(FIV)とは?を読んでみてください。
あんこと出会った日──土砂降りの中の444gの命

2017年10月15日の午前中。当時、私は美容室に勤務していました。
大粒の雨が降る中、美容室の前を通りかかった女子中学生が飛び込んできました。
「路上に猫がうずくまっている。雨に打たれて弱っているから、どうにかしてほしい」
外を見ると、雨の中でぐったりしている子猫がいました。ずぶ濡れで、目やにで目がふさがり、体は驚くほど小さかった。
まずは美容室の中で様子を見ることにしました。

あのとき声をかけてくれた女子中学生がいなかったら、あんこと出会えていなかったかもしれないよね。

その子にも感謝だね。
営業が終わった後、スタッフみんなであんこの体に付いていたノミを取り除き、バリカンで毛を刈って、きれいな状態にしてあげました。
美容室に置いてあった測りで体重を測ると、444g。
片手で持てるほどの小さな命でした。
その日のうちに自宅に連れて帰り、夫婦で話し合って「この子を家族として迎える」と決めました。
名前は、黒っぽい毛色から「あんこ」と名付けました。
保護した時点では血液検査は受けていません。まだ体が小さすぎたことと、当時の私たちにFIV検査の知識がなかったからです。
この「検査を受けなかった」という事実が、のちに大きな後悔につながります。
何気ない日常が「当たり前」だった7年間

あんこは最初から完全室内飼いでした。
ミルクやごはんはよく食べ、よく飲み、トイレも一回で覚えました。カーテンや壁をガリガリすることもなく、元気でお利口さんな猫でした。
当時、私たち夫婦は2人とも美容師として働いていたため、日中はあんこが1人でお留守番。
帰宅しても部屋が荒れていることは一度もなく、本当にお利口さんでした。

仕事から帰ると、玄関まで迎えに来てくれたりしたよね。

猫って、お利口に留守番できる子は多いんだよ。
でも、帰ってきたら構ってほしいのが本音だよ。
お気に入りは窓辺で外を眺めること。日が差す時間帯になると、決まって窓辺に移動して、じっと外を見ていました。
穏やかで手のかからない子。それがあんこでした。
体調を崩すことはほとんどなく、食欲も旺盛。毛並みもきれいで、見た目には健康そのものでした。
ただ、振り返って正直に言えば、定期的な健康診断には連れて行っていませんでした。
「元気だから大丈夫」と思っていたからです。これが、私たちの最大の反省点です。
FIVは無症状キャリア期が数年〜10年以上続くことがあります。
見た目が元気でも、ウイルスは体の中にいる可能性がある。このことを当時の私たちは知りませんでした。
FIV陽性──8歳で告げられた診断

あんこが8歳を迎えた2025年の秋頃、ある変化に気づきました。
食欲はあまり変わらない。でも、体重が徐々に減っていく。
「これは、どこか悪いのかな」
そう思い、初めて血液検査や検便などの健康診断を受けに行きました。
結果は、FIV陽性。

「猫エイズ」って言葉を聞いたとき、正直頭が真っ白でした。

「エイズ」という名前のインパクトが大きいよね。でも、人間のHIVとは別のウイルスで、人や犬にはうつらないんだよ
正直に言うと、診断を受けたとき猫エイズという病気を受け入れることができませんでした。
「あんこは、もう長く生きられないの?」
「何かしてあげられることはあるの?」
不安と焦りで、獣医師の説明が頭に入ってきませんでした。
帰宅後、夫婦で必死にFIVについて調べました。そこでようやく分かったのは、FIVは感染=即、死ではないということです。
無症状キャリア期のまま生涯を終える猫もいる。適切なケアで長く暮らせるケースも多い。
この事実を知ったとき、ようやく少しだけ気持ちが落ち着きました。
ただ、同時にこうも思いました。
「なぜ、もっと早く検査を受けなかったんだろう」
保護した時点で、あるいはその後のどこかのタイミングで検査をしていれば、もっと早くFIVの存在を知り、早い段階からケアを始められたかもしれない。
後悔しても時間は戻りません。でもこの経験があるからこそ、FIV検査の大切さは強く伝えたいと思っています。
FIVの感染経路やステージについて詳しく知りたい方は、概要編:猫エイズ(FIV)とは?を読んでみてください。
診断後に変えたこと──私たちが実践したケア

FIV陽性と診断されてから、私たちの生活は大きく変わりました。
まず取り組んだのは、食事の見直しです。
免疫力を維持するために、高タンパク・グレインフリーのフードに切り替えようとしました。
しかし、これが想像以上に大変でした。

せっかく買ったフード、全然食べてくれなくて焦ったよね。

猫は味や食感にこだわりがあるからね。いきなり変えると食べない子も多いんだよ。
食べないフードが続き、複数のメーカーを試す日々。「体に良いもの」と「あんこが食べてくれるもの」の間で何度も悩みました。
最終的に、あんこが食べてくれるフードを見つけるまでに数週間かかりました。
環境面では、年中冷暖房で室温を一定に保ちました。
私がフルリモートで在宅していたこともあり、日中のあんこの様子を常に見守れたのは大きかったと思います。
妻は美容師として日中は外出していましたが、夫婦で生活リズムを規則正しく保つことは意識していました。
猫はルーティンが崩れるとストレスを感じやすい。これは概要編や実践編でも書いた通りです。
通院と記録にも力を入れました。
体調変化後は月1回以上、動物病院に通い、獣医師に毎回相談。
自宅ではカレンダーにトイレの回数(尿・便)を毎日記入し、体重は週1回測定しました。

最初は「ここまでやる必要あるのかな」って思ったけど、記録があると獣医師さんに伝えやすかったよね。

「いつもと違う」に気づくには、「いつも」を知っておくことが大事なんだよ。
振り返ると、FIVの診断がきっかけで、あんこの体と向き合う時間は確実に増えました。
もっと早く、この意識を持てていたら。それが正直な気持ちです。
FIVキャリア猫の具体的なケア方法を詳しく知りたい方は、実践編:飼い主が今日からできるケア3選を読んでみてください。
あんこが教えてくれた3,118日──最期の日まで
FIVの診断から約半年。あんこの体調は、少しずつ変化していきました。
食欲が落ちる日が増え、体重の減少も止まらなくなりました。
それでも、穏やかな日は穏やかで、窓辺で日差しを浴びるあんこの姿は、以前と変わらないように見える日もありました。
2026年4月28日の午前中。あんこの様子が急変しました。
すぐに動物病院へ連れて行き、優先的に処置をしていただきました。
その後、自宅に帰り、約30分後──。
あんこは静かに息を引き取り、天国へ旅立ちました。
5月1日に、ペットの葬儀・火葬を行いました。
保護した日から、3,118日。約8年半。

最期も静かに、穏やかに逝ってくれたよね。

最後まで心配かけたくなかったのかもね。
若い頃から定期健診を受けていなかったこと。この後悔は、きっとずっと消えません。
でも、後悔だけではないんです。
あんこはFIVと戦いながらも、私たち夫婦にたくさんの良い思い出と、たくさんの幸せを与えてくれました。
最期も静かに、まるで眠るように天国へ逝ってくれたのは、あんこの優しさだったのかなと感じています。
思い返せば、出会った日からずっとそうでした。
トイレは一回で覚えた。部屋を荒らすこともなかった。留守番もおとなしくしていてくれた。
そして最期の瞬間まで、私たちを困らせることなく静かに旅立っていった。
出会ってから天国にいくまで、本当にお利口さんな猫でした。
あんこは私たちにとって、ペットというよりも「家族」でした。
いや、「家族」という言葉でも足りないかもしれません。あんこがいてくれたから、毎日が温かかった。
あんこがいてくれたから、私たちは夫婦としても成長できた。そう思っています。
あんこへ。
一緒に過ごせた時間、たくさんの幸せをありがとう。
FIVの飼い主さんへ──私が今、伝えたいこと
この記事を読んでくださっている方の中には、愛猫がFIVと診断されたばかりの方もいるかもしれません。
あるいは、保護猫を迎えたいけれど、FIVが気になっている方もいるかもしれません。
私が今、伝えたいことは3つあります。
1つ目は、FIV=絶望ではないということ。
FIVは感染しても、無症状のまま長く暮らせるケースが多い病気です。
診断を受けた瞬間は大きなショックを受けると思います。
でも、「適切なケアで猫は幸せに暮らせる」。これは、私たちが3,118日の経験を通じて実感したことです。
2つ目は、正しい知識を持つことの大切さ。
FIVについて何も知らなかった私たちは、保護時の検査も、定期健診も、後回しにしてしまいました。知識があれば、もっと早く行動できたはずです。
このシリーズの概要編・実践編・予防編には、FIVに関する基本情報をまとめています。まだ読んでいない方は、ぜひ目を通してみてください。
3つ目は、今日からできることがあるということ。
愛猫のFIV検査を受ける。カレンダーにトイレの回数を記録し始める。かかりつけの獣医師に相談する。
大きなことをする必要はありません。小さな一歩が、愛猫との時間を守ることにつながります。

あんこがいなくなって寂しいけど、この経験を伝えることには意味があると思ってるんだ。

同じ立場の飼い主さんの不安が、少しでも軽くなるといいね。
FIVの予防法について知りたい方は、予防編:飼い主ができる感染対策を読んでみてください。
まとめ

この記事では、FIVキャリアだった愛猫あんことの3,118日を振り返りました。
- あんこは2017年10月15日、大雨の中で保護した野良猫だった
- 8歳を迎えた2025年秋、健康診断でFIV陽性が判明
- 診断後は食事・環境・通院を見直し、できる限りのケアを実践した
- 2026年4月28日、自宅で静かに息を引き取った
- 保護から3,118日間、あんこは幸せに暮らしていたと信じている
FIVと診断されても、猫は幸せに暮らせます。
そのために必要なのは、正しい知識と、日々の小さなケアの積み重ねです。
まずは、かかりつけの獣医師に相談してみてください。
- 概要編:猫エイズ(FIV)とは?
- 実践編:飼い主が今日からできるケア3選
- 予防編:飼い主ができる感染対策
よくある質問(FAQ)

- QFIVキャリアの猫は幸せに暮らせますか?
- A
はい。FIVに感染しても、無症状キャリア期が数年〜10年以上続くケースは多くあります。適切な栄養管理、ストレスの少ない環境づくり、定期的な健康診断を続けることで、感染していない猫と変わらない生活を送ることは十分に可能です。
私たちのあんこも、FIV陽性でしたが、最期の日まで穏やかに暮らしていました。
- QFIVの診断を受けたとき、まず何をすればいいですか?
- A
まずは、かかりつけの獣医師に今後のケア方針を相談してください。自己判断でサプリや薬を与えるのは避けましょう。その上で、食事の見直し、室温管理、トイレや体重の記録などを少しずつ始めるのが良いです。具体的なケア方法は実践編で詳しく解説しています。
- QFIVの猫の看取りで大切なことは何ですか?
- A
急な体調変化に備えて、かかりつけの動物病院の連絡先をすぐに確認できるようにしておくことが大切です。また、最期の時間をどう過ごしたいか(自宅で看取りたいか、病院での処置を優先するか)を、事前に家族や獣医師と話し合っておくと、いざというときに落ち着いて判断できます。
